近年、新しい建築物はこのような構造によりつくられる。
低迷が続く昨今の景気は消費者に買い控えという現象をもたらしました。所謂「かしこい消費者」が確実に増え、コストパフォーマンスに優れた商品にしか手を出さないという傾向が強くなってきています。
建築業界に対する施主の目もまたしかりで、デベロッパーは施主からできるだけコストの抑えた仕事を求められる状況にあります。しかし、食料品などの安価な買い物とは異なり、建築物などの大きな買い物の場合は目先の安い価格につられて購入した場合、往々にして後々大変な災禍を招くことがあります。
現在の建築業界の作業構造は、残念ながら理想的なものとは言えません。強まるコストダウン要求により、企業は作業価格、販売価格を抑えることに腐心しています。しかしながら、利潤追求団体である企業はダウンさせたコスト分を損失として受け入れることはありません。必ずどこかで辻褄合わせが行われているのが現実です。そしてそれは施主の目から見えないところ、施主から地理的には近く、知識的には遠い現場周辺で行われていることが多いのです。
人、道具、材料など専門家でなければ分からないところで手抜きが行われ、見栄えの整合性だけがつけられているのですから、施主にとっては目に見えぬ恐怖です。
いつしか、使い手のことを最も考慮しなければならない日本伝統の「ものづくりの文化」が崩壊し、作り手の都合だけがまかり通る憂うべき時代になってきました。
「つくる人」とは誰なのかを考えたときに、それは通常、仕事の流れから見て施主から最も遠いところに位置する人と定義することができます。
見積り金額の決定方法は時代とともに変化し、バブル期までは製造原価に二次下請、一次下請、それに元請の利益が上乗せされ算出されました。現在では指値方式で、元請から施主に提出される見積書(元請受注額)ありきで、その金額から元請、一次下請、二次下請の利益がマイナスされ、製造原価として「つくる人」の会社に製造原価として支払われるという方式を取っています。
両者を比較すると、一見、見積り金額の低い現在の指値方式が施主にとってメリットが大きく感じられますが、その実、これが大きな落とし穴になることが多いのです。製造原価を削られてしまった「つくる人」の会社は、その辻褄合わせをしなければ、会社が経営上困難な状況に追い込まれてしまうので、いろいろな方策を取ろうとします。また、心理的に職人の”やる気”にも大きく影響するのは隠しだてのしようがありません。
かくして、見積金額の整合性は取られ、施主に安価な見積書として提出されることになり、施主の見えないところで作業内容と見積金額との整合性もしっかり取られているのです。ここにかねてから問題視されている建築業界の下請構造の悪名高さの所以があります。
それでは施主、「つくる人」の会社、双方に取って利益となる改善策はあるのか?と考えたときに、そこに一つの光が差し込むところが必ずあることに多くの人々が気づき始めています。
今までの「つくる人」から施主までのはるか遠い道のり。この距離を近づけようとする試みが施主側、そして「つくる人」の会社側、双方から少しずつ始まっているのです。
現在の下請構造の中で、最も複雑化したものは、解説図の最後の図のように管理組合、ゼネコン、ゼネコン子会社を経て、下請に出される場合です。こうなると実際の作業にあたる職人は5次下請け以上になっていることが多く、金銭的な面から見れば、そこにたどり着くまでに経由したそれぞれの企業が利益を得るため、見積り金額に上乗せされるか、あるいは職人の賃金が圧縮される結果になります。
最近多く見受けられる後者の場合、職人の士気に大きく影響し、しかも構造上、実作業の最上位に位置する設計士では、自分からあまりにも離れすぎた現場を把握することも掌握することもできません。よって、このような構造では正常に現場を回すことがほぼ不可能な状態にあることが多いのです。
これ以外にもこのような複雑な下請構造では以下のような問題点があり、早急な改善が求められています。それには受注側、発注側、双方の意識改革が必要です。受注側は不必要な中間マージンの排除を進めること、発注側は「大手に頼めば安心」という意識の改革が肝要でしょう。また、職人を抱えるか、または直接職人に発注できる中小のしっかりした業者に目を向けるのも発注者にとっては解決策のひとつになるかもしれません。