匠リニューアル技術支援協会のコラム

コラム

第3回 悲しい現実

先日(雨)、突然今年11月に技術者登録を申請しセミナーを受講した職人さんが、協会の事務所にこられました。その話は余りにも酷いもので、今だに頭から離れません。

突然の訪問者

先日(雨)、突然今年11月に技術者登録を申請しセミナーを受講した職人さんが、協会の事務所にこられました。その話は余りにも酷いもので、今だに頭から離れません。今回はその職人さんから聞いた話をお伝えしたいと思います。彼はセミナー受講後、千葉県にあるA団地のベランダの防水工事を請けたそうです。

本末転倒

その現場に俺達が入場した時には、前工程の塗装が人員不足のためか計画より20日程度工期がずれ込んでいました。ですから後工程となるベランダ防水の工期は、当初計画日数よりかなり短縮されていました。その工程は逆算工程で、足場解体日を軸に塗装と防水の工程を組み込むというものでした。

無謀

防水工程表には、1)清掃、2)接着剤塗布、3)防水材1回塗布、4)仕上げ材塗布、5)駄目直しの5工程で、1と2で1日、3~5は各1日とし1区画4日間で仕上げる、となっている。
また、指定材料は某メーカーの無溶剤タイプ。この時点で俺達には先が読めなかった。それは指定材料を触ったことがなかったからです。
思ったとおり、工事が始まるや否やたちまちトラブルが発生した。まず、防水材の乾燥は2日間必要であったこと、次に仕上げ材が未完成で使い物にならなかったこと、そしてこの問題を解決するために4日間も工事がストップしたことである。
変更事項は1区画4日を6日間に、仕上げ材は水性を溶剤に、の2点でした。ところが、この水性から溶剤への変更には大きな問題がありました。というのは、施工試験において材料メーカーが防水材と溶剤仕上げ材との接着試験はおこなっていないため、どの程度の接着力が出るのか解らないというのである。つまり責任はもてないのかと聞くと、コンサルも元請けも了解済みなので……。工期がないからといって。

妥協

しかし、1工区あたりの日数は伸びたが実働日数は変わらない。やはり工事が進むにつれ次第に体力が落ち生産性が低下した。この時期"増員は望めない"。このままでは工期に間に合わないと諦め、見習い工に鏝をもたせ塗らせた。厚みが確保できない・ムラが出るなどの問題が出る。そして、手直しも出来ないまま検査日が来た。何と、コンサルと現場監督の検査では指摘個所がでない。その時、俺は工期の都合で検査を合格させたと思った。次の日、施主のアンケートによる最終検査結果がでた。たった2件だけだった。明日足場が解体される。そこだけ直し次の工区へ移った。

苦悩

いやになってきた。"現場を変えてくれ!!"と会社に嘆願した。親方に"お前しかいない!"と泣きつかれた。"断れなかった"周りの仕事に目がいった。塗装の出来具合も酷い。尚更早く終わらせたいと思った。
施主には悪いと思うが俺にはどうしようもないじゃないか……。"俺のせいじゃない"と自分に言い聞かせた。

苦渋

俺達がやった仕事は絶対雨漏りを起こさない。たとえ起こってもすぐに直す。そんなことをセミナーの後でみんなで話合った。親方が"施主に喜んでもらえる仕事を追求したい"とポツリと言った。匠のセミナーなど聞かなきゃよかった。以前はこれが普通だった。気にならなかった。苦しい・悲しい・虚しい・悔しい……。

希望

彼は言った。"以前よりいい仕事をしたいと思う気持ちが強くなりました""俺はがんばります"と頭を下げ席を立った。朝11:00ごろから話初めてから2時間半が経過しようとしていた。

●防水職人:27歳 既婚、3人家族、持ち家、職歴は高校卒業後、塗装工になり、数年後防水工に転職。

●私の印象:礼儀正しく好青年であり、職人に生まれてきたような職人。

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